何だと?

春音が僕に恋……?

聞き違いか?

「今、何と言った?」

相沢がため息をついた。

「もう一度言わせるんですか?」

「聞き違いをしたようだ」

「聞き違いですか」

相沢が苦く笑った。

「よく聞いて下さい」

相沢がこっちを見た。眼鏡奥の切れ長の目が鋭く光った。

「春音さんは、黒須に恋をしていますよ」

えっ……。

「聞いてますか?」

相沢が確認するように言った。

頭が真っ白だ。この情報をどう処理したらいいんだ。相沢は僕をからかってるのか?

春音が恋……?

聞き違いじゃなかったのか?

「黒須?」

「相沢、今のは冗談だよな」

相沢が笑い出した。

やっぱり冗談だったのか。そうだよな。春音が僕に恋なんて可笑しいと思った。だって春音は僕を恨んでるし、憎んでるし、大嫌いだっていつも言ってくるし……。

「びっくりさせるなよ、相沢」

相沢の肩をトントン叩いて、一緒になって笑った。

「冗談ではありませんよ」

相沢が急に真顔になって言った。

「な、何言ってんだ。僕は春音に嫌われてるんだぞ」

「何をそんなに狼狽えてるんですか?」

「狼狽えてなんかない」

「春音さんに情が移りましたか?」

頬が強張る。なんて言い草だ。美香の大事な妹の春音をそんな目で見る訳がない。ふつふつと怒りが込みあがる。

「いくら相沢でも言っていい事と悪い事があるぞ」

相沢を睨んだ。

「春音さんに好意はないんですか?」

「春音は家族だ。妹として心配してるだけだ。それ以上の気持ちはない」

「では、春音さんが誰かと結婚してもいいという事ですね?例えば私とか」

相沢が試すようにこっちを見た。

春音と結婚だと?何を言ってるのだ、この男は。大して春音の事を知らないくせに。本気で言ってるのか?