ホテルから明かりが盛大に漏れているから、真っ暗になることはないけれど……。


 何にせよ、そうなったらこちらのもの。

 新月を上昇の月とする私達の時間だ。

 早く、早くと気が逸る。


 そんな中、やっぱり三対一では分が悪かったようで田神先生が吹き飛ばされてしまった。

「ぐはぁっ!」

「たがみ……せんせ、い……」

 心配だけれど、駆け寄って様子を見ることも出来ない。


「チッ、手こずらせやがって……」

 伊織のお付きの人達が悪態をつきながら近付いて来る。

「さぁて、これで助けはなくなったぜ?」

 座り込んでしまっている状態の私と永人の前に、囲むように仁王立ちする二人。


「っく……」

 勝ち誇ったような彼らに永人は悔し気な声を出す。

 パワーアップしてはいるものの、薬は未だに効いている。
 二人を相手に逃げ切れるかは不安にもなるだろう。


 ……でも、大丈夫。


「聖良さんも岸も、諦めなさい。さあ、彼女を連れてくるんだ」

 男二人の向こう側で、少し息を乱した伊織が指示を出す。

 その指示に従い彼らが一歩踏み出すのと同時に、私はゆっくり立ち上がった。


「……聖良?」

 驚く永人の声が聞こえる。

 大丈夫。

 永人が――みんなが私を守ってくれた分、私もみんなを守るから。


 薬が効いているのに立ち上がった私を不審に思ったのか、一歩を踏み出した状態で止まっている二人。

 そしてその向こうにいる伊織に向かって、私は言葉を放った。



「下がりなさい……始祖の力を継いだ私に許可なく触れるなど、無礼にもほどがある!」

 そう……今はもう、新月の夜だ。