でも、彼の意志も簡単に折れるようなものじゃなかった。


「……月原家のことを何も知らないから言えることだな」

 冷静さを取り戻した彼はそう言うと私を捕らえている二人に指示を出す。

「聖良さんも今夜が上昇の月なのかもしれないな、薬が効いているにしては元気そうだ。……もっと濃度の高いものを吸わせておけ」

「はい」

「なっ⁉ やだっ!」

 もう少し弱ったふりをしていれば良かったのかも知れない。

 でも、怒りを我慢することが出来なかったんだから仕方ないことだった。


 意識はハッキリしてきたけれど、体はまだ自由には動かせない。

 思うように力が込められなくて、さっきの永人のように鼻と口に布をあてがわれる。


 吸うもんかと思っていても、ずっと呼吸をしないのは無理な話で。

 細く息を吸った際に、薬を吸い込んでしまう。


「うっ……」

 途端に視界が揺れる。

 体は完全に力が入らなくなって、意識が朦朧とした。


 周囲の音も聞こえづらくなって、「連れて来い」という伊織の声だけが耳に届く。


 運ばれながらも、気を失うことにならない様に意識だけは保つよう耐えたけれど、それ以外はどうも出来ない状態。

 そのまま外に運び出されて、車に乗せられそうになったときだった。


「行かせるか!」