「大変なんて言葉じゃ片付けられないよー」
 と愚痴りながら、愛良はグラスの麦茶を一気飲みする。

 私も数回喉を鳴らしながら飲み、プハーと息を吐いた。


 そのまま数秒黙っていると、愛良が突然神妙な顔つきで口を開く。

「あのさ、お姉ちゃん……」

「ん? 何?」

「石井先輩って……ううん、零士先輩達って…………人間、なのかな?」

「は?」

 人間じゃなきゃ何だって言うのよ?


 その言葉は口にせずとも表情で伝わったらしい。
 愛良は真剣な顔で説明する。

「本当にね、あたしを抱えてるとは思えない程の速さだったの。石井先輩男だし、体鍛えてるみたいだし、力は強いと思うよ? でも、それだけじゃ説明出来ないような動きをしてたの」

 淡々と、でも何とか分かって欲しくて必死に話してるのが伝わる。


 でも、実際に見ても体験もしていない私には本当の意味で理解する事は出来なそうだった。

 それが分かっているのか、愛良は話の人物を零士へと変える。


「それに、零士先輩と初めて会った時の事覚えてる?」

「初めてっていうと……誘拐しようとした時の事?」

 思い出し、無意識に顔をしかめる。

 嫌いな零士の事は思い出すだけでも良い気分じゃ無い。
 それを隠すつもりも無いし。


 そんな私を見て少し苦笑した愛良はすぐに真剣な顔に戻った。