【完全版】妹が吸血鬼の花嫁になりました。

 ゆっくり離れていく田神先生を見ながら、思う。


 応えられなくてごめんなさい。
 好きになってくれて、ありがとうございます。


 言葉にしていいのかも分からなくて、声には出せなかった。

 でも、なんとなく感じ取ってしまったんだろう。

 田神先生は、困り笑顔を浮かべてゆっくりと目を閉じた。

 次に目を開けたときには“先生”としての顔に戻る。

「それでは私は戻るとしよう。聖良さんの怖い彼氏に殺されたくはないからね」

 冗談っぽく言うのは、泣きそうな私を気遣ってくれたからなのかもしれない。


 田神先生はドアに向かおうと踵を返し、途中で止まってもう一度私を見る。

 そして真剣な眼差しで告げた。


「そうだ、パーティーの参加は考えておいて欲しい。今度こそ、守るから」

 言い終えると、今度こそ振り返らずに先生はドアを開ける。

 そうして出て行った彼と入れ違いに永人が入ってきた。


「聖良!」

 焦っているような、怒っているような呼び声に返事をする間もなく抱きしめられる。

 永人の肩の向こうで、ドアがバタンと閉じるのが見えた。


 ギュウッと、苦しいほどに抱きしめられて永人の腕を叩く。

「永人、ちょっと苦しい」

「知るか、ちょっとだったら我慢しろっ」

「……うん」