【完全版】妹が吸血鬼の花嫁になりました。

 ただでさえ今は命令をして無理やり席を外してもらっている状態だ。

 これ以上永人が嫌がることをしたくないと思う。


「……もしかして、岸に悪いとか思っているのか?」

「え? えっと……はい」

「では、強引に行くとしよう」

「え? な――」

 どういう意味なのかと聞き返そうとしたけれど、それよりも田神先生の行動の方が早かった。

 気付いたら、彼の腕の中にいたから……。

「なっ⁉ 田神先生⁉ 何もしないって言い――」

「好きだ、聖良」

「っ⁉」

 何もしないって言いましたよね⁉ という言葉は、田神先生の想いを詰め込んだような声に遮られる。


「本当に、好きだった(・・・)

 過去形……その少しの違いを感じ取った。

 田神先生は、本当に諦めようとしてくれているんだと……。


 それが分かったから、非難する言葉も出せず、抵抗も出来なくなる。

「すまない……でも、こうしてちゃんと確かめたかったんだ。俺の中に純粋な恋心が残っていることを……」

「先生……」

「ありがとう……これで汚い大人ではなく、一人の男として君への想いを終わらせることが出来る」

「っ……」


 田神先生の想いが伝わってきて、鼻の奥がツンとなる。

 涙が滲んで目が潤んだけれど、零れないように耐えた。