私は出来る限り平静を装いながら、近づいてきた永人の胸を軽く押した。


「そ、そういうのは二人きりのときにするものでしょ?」

「じゃあ、さっさと二人きりになろうぜ?」

 それでも攻めるのをやめない永人は、彼の胸を押した私の手を掴む。

 そして髪をいじっていた手を私の肩に回し、どんどん顔を近づけてきた。


「な、永人……?」

「こんな風にお前に触れるのは俺だけの特権だからなぁ……もっと触れてぇ……」

 キスされそうなほどの近さに、ドキドキが止まらなくなる。

 黒曜石みたいに黒い瞳が真っ直ぐ私だけを見てくるから、ついそのまま……なんて考えまで()ぎる。

 でも、周りに人がいることを忘れることも出来なくて……。


「~っ! 永人、ストップ!」

 つい、“命令”してしまった。

 その瞬間ピタリと止まる永人。

 数秒後「チッ」と舌打ちが聞こえた。


「こういうとき主従の誓いは厄介だなぁ……」

 面倒くせぇ、と呟く。

「ふ、二人きりのときって言ったでしょう?」

 そんな永人にドキドキする胸を押さえてもう一度告げる。

 永人は不満そうにしながらも「だったら」とまた私の髪をいじり始める。

「なおさら早く二人きりになろうぜ?」

 誘う言葉はまだ少し甘くて、また私の心臓は早鐘を打った。


「ん! ううん!」