それで逃げるための力を得るためにって私は彼女に血を吸われて――。

「っ!」

 思い出し、ゾッとした。


 あのとき、おそらく必要以上に血を吸われたんだろう。

 吸血の熱の後に感じた寒さと気持ち悪さを思い出し、死の恐怖も思い出す。


 でも、すぐに恐怖より胸の苦しさが心を占める。


『嘘だ……聖良……嫌だ、行くな……』

 岸の悲痛な声が蘇る。

 あんな顔、させたくなかった。


 彼の思いに応えて、そうすることで喜ぶ顔が見たかった。

 母親のことで辛い思いをしたという彼に、私はそばにいると言って抱きしめたかった。


 でも、それをすることなくあんなことになって……。


 ……私は、死んだの?


 自分に問いかけるように考える。

 でも、直前に嘉輪が来て言った。


『聖良、どんなことになっても生きたい?』

 って……。


 あのときはとにかく死にたくないと思って、深く考えずに頷いた。

 でも、今よく考えるとあの問いって……。


「聖良……?」

 ひそやかに、声が掛けられる。

 どうやら近くに誰かいたらしい。


「お姉ちゃん?」

 愛良の声も聞こえて、私の視界に二人の顔が入る。


 愛良と嘉輪の心配そうな表情があった。

 愛良だけだったら夢の続きかと思ったかも知れない。