ゾクリと、言いようのない不安と焦りが身体を震わせた。


「ま、それも本物の“花嫁”が手に入るならしなくていいことだ。とりあえずは大人しく着いて来てもいいと思うぞ?」

 震える私を取り残して、男は飄々とした態度に戻った。

 本物の“花嫁”――つまり愛良が零士から離されて月原家の当主の子を産めば私がそういう思いをしなくてすむ。

 そういうことか……。


 ふざけるな。


 そんなこと、何があったってさせるわけにはいかない。

 私だって嫌だけど、だからって愛良にそんな事させるもんか。


 そう思った途端、震えは収まり怒りが湧く。

 抱き寄せてくれている岸のもう片方の手を握りながら、私は助手席の男を睨みつけた。


「聖良?」

 そんな私の様子を見た岸は、フッと息を吐いてニヤリと笑った。

「そうだな、お前はそういうやつだよ。……だから俺はお前に惹かれるんだ」

 その言葉が、私に力を与えてくれるような気がした。


 ルームミラーでこちらの様子を伺っていた男は、苦笑いだけしているみたいだ。

 何を思っているかは分からない。

 でも、そんなのはどうでもいい。
 なんと思われようが関係ない。


 私も愛良も、そんな目には遭わないし、遭わせない!

 どうすればいいのかも分からなかったけれど、ただ決意だけはしっかりとした。