「テメェに言われるまでもねぇ。守るに決まってんだろ?」

 だからその手を離せと睨みつける。


 悔しそうな俊君だったけれど、彼はゆっくり私の腕を離してくれる。

 俊君の手が離れるかどうかというところで、私は岸に腕を引かれた。


「……ったく。お前を好きな男は俺だけで良いってのに……」

 そんな文句と共に、抱き留められる。

「っ――」

 私だけを求めてくれる声。

 私だけを選んでくれるその手に、どうしようもなく喜びが湧いてくる。


 その喜びを与えてくれる岸に、応えたいと思う。

 でも、今の私は色んな感情が渦巻いていてまだ素直に求めることが出来ない。


 嬉しい、心苦しい、求めたい、申し訳ない。

 喜びと悲しみの感情が行ったり来たり。

 元々素直じゃない性格もあって、私の方から岸に抱き着くことは出来なかった。


 ただ、私が岸を選んだんだってちゃんと分かってはもらいたくて……。

 好きなんだと口ではまだ言えそうにないから態度で示したくて……。


 私は岸のシャツをキュッと控えめに掴んだ。

「聖良……?」

 呼びかけに少しだけ顔を上げる。

 岸の切れ長な目の中にある黒い瞳を目にした途端、どうしようもなく感情があふれ出た。


「っ……あ……」

 あふれすぎて、言葉が出てこない。


 会いたかった。