引かれるように、岸の元へ足を進めようとすると俊君に腕を掴まれ引き留められる。

 そうしてから、私はハッとした。


 そうだ。
 みんな理解は示してくれたけれど、あくまで私を守ろうとしてくれてるんだ。

  それなのに彼らを(かえり)みることなく岸の元へ行くなんて……。


 ちょっと反省して、説得をするために俊君を見た。

 でも俊君はその何かを耐えるような複雑そうな表情を私ではなく岸に向けている。


「……聖良先輩は、お前を選んだ」

 うなるように、俊君は声を出す。

「そして、聖良先輩がお前の“唯一”だって言うなら……俺はこの手を離さなきゃならない」

 その言葉は、自分に言い聞かせている様にも聞こえた。

「離したくないけれど、仕方ないから離してやる……だから!」

 キッと、真っ直ぐ岸を睨みつける。


「絶対に、守りきれ!」

「俊君……」


 俊君が複雑な心境だってことくらいは分かる。

 それでも手を離してくれると言った。

 守る役目を岸に預けると言ってくれた。


 それが申し訳なくて……嬉しくて……。

 泣きたくなりそうな気持ちをグッとこらえた。


 そうしていると、無言で近づいてきた岸が私のもう片方の手を掴む。

 はぁ……、と面倒臭そうにため息をつきつつも、その目は真っ直ぐ俊君を見ていた。