「聖良……辛かったよね? でももう大丈夫だから。……もう、あんなこと二度とされない様にするから」

 私が落ち着くように、言葉を選んでくれている様に話す嘉輪。

 でも、そうじゃない。

 襲われたことももちろん怖かったし辛い。

 でも、一番辛いのは……。


「嘉輪……辛いよ……。今、一番傍にいて欲しい人がいない……私、それが一番辛いよっ……」

 嘉輪にしがみつきながら、思うのは別の相手。


 来れるわけがないのは分かってる。

 でも、求めてしまう。

 こんなときほど、あいつにそばにいて欲しいのに……。


 強引なくらいに抱き締めて、私は自分のものだって独占欲丸出しにして……。

 そして、怖さも忘れるくらいあいつでいっぱいにしてほしい。

 岸……。

 どうして今この時にいてくれないの……。


 来れないのは分かっていても、そんな思いはなくなってくれない。

 岸を求めてしまう。


「っごめんね、嘉輪。……嘉輪がいてくれてるのにっ、うっうぅ……」

 岸のことを言ったって、嘉輪を困らせるだけだ。

 それに今傍にいてくれてる嘉輪にも悪い。


 そう思って謝ったけれど、嘉輪は気にしなくていいと言ってくれる。

「いいの、いいのよ聖良。分かってるから……」

 辛そうな表情でそう言ってさらに泣き出す私をずっとなだめてくれた。


 ごめんね、嘉輪。
 そして、ありがとう。