愛良を引っ張る腕に掴みかかり叫ぶ。


 ダメだ。
 こいつカッコイイけど、ヤバイ奴だ!


 瞬時にそう判断した私は愛良から男の手を引っぺがした。

 男が本気で力を込めていれば難しかったかもしれないけれど、邪魔が入るとは思っていなかったらしい彼は丁度その一瞬力を緩めていたみたい。

 愛良を背中に守る様にして男から距離を取る。

 相対した男は私をあからさまに邪魔そうな目で見ていた。


「愛良、大丈夫?」

 ちらりと見ると、今にも泣きそうな不安気な顔で私の制服の袖をギュッと掴んだ。


「お姉ちゃん……」

 か細い声で私を呼ぶ愛良の顔を見れば、男が愛良の知り合いでもないことは明白だった。

 それが分かると、今度は私が愛良の腕を掴む。


「愛良、走って」
「え?」
「逃げるよ!」

 愛良の返事を聞く前に、私はその腕を引っ張って逆方向へ走り出した。


「なっ!? おい待て!」

 男の声が聞こえたけれど、待つわけないでしょ。バーカ。

 私達はしばらく走って、男が追って来ていないのを確認してからやっと足を止めた。

 二人で膝に手をついて息を整える。


「ハア、ハア……ごめん、愛良。いきなり走って……」

 少し息切れが治まってから謝る。
 あの場は仕方なかったとはいえ、突然走り出してビックリしただろう。