「……せめて聖良、自分からあいつに接触しようとだけはしないでくれ」

 妥協された願い。

 でも私はあいつのことをハッキリさせたい。

 あいつを思い出すと湧き上がってくる熱の正体を知りたい。

 事あるごとに記憶から湧き出てくるあいつを追い出したい。


 ここでその気持ちを隠して頷いても良かったけれど、田神さんには正直でいたかった。

 だから。

「……ごめんなさい。そのときにならないとそれは分からないです」

 正直に伝える。


 あいつの姿を見たとき、田神さんの言葉を思い出して立ち止まれるか。
 それはそのときにならないと分からない。

 だから、約束は出来なかった。


「聖良っ! ――くっ……」

 咎めるように名前を呼ばれたけれど、今は何を言っても私の意見が変わらないって気づいたんだろう。

 うん、私って結構頑固者だから。


 さらに強く掴まれた手を見つめながら、私はもう一度ポツリと謝罪した。


「ごめんなさい、田神さん……」