わざとらしいほどにチュッとリップ音を立てて離れると、妖艶な微笑みが見上げてくる。

「あっ! 俊先輩はまたそうやって抜け駆けして!」

 俊君の行動に何かを言う暇もなく、今度は浪岡君が奪うようにその手を取った。


 俊君の唇が触れた場所をハンカチで拭き取ると、そのままキュッと握りこまれる。

「あ、あの?」

「何度だって言いますからね。聖良先輩、好きです。その格好も、本当に可愛いです」

「っっっ⁉」

 ストレートな言葉に、私は息を止めて恥ずかしさを耐えることしか出来ない。


 そんな状況のところに、また新たな声がかかった。

「あ、香月。香月の仮装はメイド服かぁ……なんか、イイな」

 隣のクラスの出し物は良いんだろうか、忍野君がこっちの教室に入って来るとそう言った。


「……忍野先輩、自分のとこの出し物は良いんですか?」

 浪岡君があからさまに邪魔そうに言うけれど、忍野君は気にした風もなく普通に答える。


「ん? ああ、俺の担当の時間は終わったからな。零士なんて交代が済んだ瞬間に中等部の方に向かったんだぜ? 逆にすげぇよな」

 と、聞いてもいないやつのことまで話してくれる。


 忍野君は零士と同じ隣のクラスに転入した。