深夜、協力者に用意してもらった家の縁側から日々欠けていく月を見上げた。

 協力者である月原家は古くから日本にいる吸血鬼だ。
 そのせいか吸血鬼達の中でもそれなりの権力を持つ。

 たかが一協力者でしかない俺に別邸を貸すくらいには金持ちでもあるってことだ。


 真っ暗な空に小さく浮かぶ下弦の月を見ながら俺は一度は手にできたはずの女を思う。

 香月聖良。

 初めてその気配を察知したときから気になっていた存在。
 直接触れ、その血を飲んでからはあいつを求める心を制御出来なくなった。

 甘く芳しい、今まで飲んだ血の中で最上のもの。

 あの味を思い出すだけで恍惚とした気分になる。


 あれが“花嫁”の血ってことなのか?

 分からねぇ……けど……。


 血を吸った後の聖良の顔を思い出す。

 怖がってはいても、直接吸血で与えられた熱で潤む目と上気した頬。

 熱い吐息を漏らす唇には、すぐにでもかぶりつきたかった。

 とにかく何が何でも俺のものにしたくて、無理矢理にでも奪おうとしたんだ。


 でも、邪魔が入った。


 そうして逃げても聖良が欲しいという思いは強くなる一方で……。

 だからそのための手段として、月原家の協力者に名乗りを上げたんだ。


「それだっていうのに、失敗するとはな……」

 思わず悔し気に舌打ちしてしまう。