【完全版】妹が吸血鬼の花嫁になりました。

 誰もいないランドリー室を通り過ぎて、誰も使っていないシャワー室の一つに入る。

 そして一通り洗い終えてから、私は意を決する。


「……ふぅ……よし!」

 確認しなきゃと思ったけれど、何だか見るのが怖くて鏡を見ない様に体を洗ってしまった。


 でも確認しないわけにはいかない。

 私は髪を後ろに流し、しっかり見えるように準備を整える。

 そしてもう一度深呼吸をしてから鏡を見た。


「っっっ⁉」

 目を疑った。

 これは、忍野君も目を泳がせるわけだ……。


 舐められていた耳の下から、首筋、肩の近く。
 あとは鎖骨と喉にも。

 パッと見いくつあるのか分からないくらいの赤い痕。

 恐る恐る数えてみたら十個あった。


 あの短時間でよくまあこんなにも痕をつけられたものだ。


 岸は、これが執着の証だと言った。

 こんなにも痕をつけるほどの執着……。


「っ!」

 溢れてきた感情が何なのか分からないけれど、とにかく全身が熱くなった。

 怖いとも思うし、純粋に恥ずかしいとも思う。

 あとはこんな印をつけられた怒りと――良く分からない燃えるような感情。


 私は持て余したその燃えるような感情を怒りに変換した。


 もし次会ったら、絶対殴る。

 それだけは何が何でもやると決めた。