「じゃあ小難しい話は後にして、とりあえずは……助けに来てくれてありがとね、忍野君」

 まだちゃんとお礼を言っていなかったと思いそう口にする。

 どんな事情があるにしろ、助けようとしてくれたのは事実なんだから。

「香月……」

 やっと顔を上げた忍野君は、泣き笑いみたいに顔をくしゃっとする。

 その目が少し下に向いたと思ったら、忍野君はそのまま硬直してしまった。


「……ん? 何?」

「こ、づき……その、首にあの……」

 忍野君の顔が暗がりでも分かるほどにどんどん赤くなり目がものすごく泳いでいる。


「首?……っ!」

 忍野君が赤くなった理由が分かって、思わず両手で首周りを隠す。

 自分で見た分には鎖骨辺りに一つか二つくらいしか見えなかったけれど、忍野君の反応を見る辺りかなりの数がある様だ。


 な、何か隠すものなかったっけ?


 と慌てていると、正輝君が自分のスカーフを取ってふわりと巻いてくれる。

「ごめん、あえて触れない方が良いかと思ったんだけど……見られる方が嫌だったよな」

 気まずそうに言う正輝君に、私はその通りだよと思った。


 気付いてたんならもっと早くスカーフ貸してよね!


 そうすれば少なくとも忍野君にまでは見られることはなかったのに……。

 うう……何もかも全部岸が悪いんだ!

 あいつ、今度会ったら絶対ぶん殴ってやる!


 そう決意するとともに、何か格闘技を習った方が良いかなと考え始めていた。