チュッというリップ音と共に、何度もその痛みが与えられる。


「っやっ! も、やだぁ……!」

 訳が分からなくてとにかく拒絶の言葉を吐き出した。

「っはぁ……。そうだな、とりあえずここを離れっか」

 拒否の言葉をどう受け取ったのか。

 岸は濡れた唇を離し、私の拘束を解いた。

 ただし、右腕は掴んだまま。


 そうして腕を引かれたけれど、足に力が入らなくて転びそうになる。

「おっと」

 すると不覚にも岸に抱き留められた。

「なんだぁ? 感じたか? 聖良」

「ちっがう!」

 多分違う。
 ううん、絶対違う!

 こんな奴に感じるとかありえない!


 溶けかけていた頭を怒りで無理やり元に戻す。

 自分の足でしっかり立って、岸から離れた。

 腕は掴まれているから二歩分が限界だったけれど。


「まあいい。さっさと行こうぜ」

 岸に腕を引かれたけれど嫌だという思いから足を動かせないでいた。

 すると岸の目がスゥと冷たくなり、その眼差しがずっと黙って置物のように立っていた有香に向く。

「あの子、壊されてぇの?」

「っ!」

 岸の本気を感じ取り、私は短く息を吸って彼に掴みかかる。


「行く! 行くから!」

「そうそう、初めから素直について来ればいいんだよ」