聖良の件で本当に犯人だったという事も分かったが、あいつは寮にも戻らず学園敷地内から逃げおおせてしまった。

 去り際に見せた聖良への執着。
 あいつはまた聖良を狙って来るだろう。


「全く……本当に憎らしい……」

 呟き、グラスの中のウィスキーを(あお)った。

 ウィスキーの芳醇な香りを楽しめないのは、心に苦いものが残るからだろうか。


 聖良の血の気配を強く感じ、彼女の血が流れた。
 何者かに咬まれたからだと理解した途端、俺の中に怒りが沸き上がったんだ。

 俺が手に入れたいと思った少女。

 関りは少なくても、彼女の人となりはある程度分かる。


 妹思いで、意思はハッキリしているのに自己肯定感が低い。

 強さと弱さの比重が、一見バランスが取れているようで危うい。

 そんな聖良を……俺は愛らしいと思っていたんだ。


 なのに、奪われた。
 先に手をつけられてしまった。

 愛しく思っていた少女の血を吸った岸への怒り。

 身を焦がすほどの感情に支配されないようにするのが精一杯だった。


 そんな状態だったからだろう。

 昼間にこの部屋に来た聖良を抱きしめて、抑えが効かなくなった。

 彼女の存在を確かめるように、強く抱き締めたくなった。