でも今回ばかりは愛良の言葉で引き戻された。


「でも……だって、帰ってきたとき……手、繋いでたじゃない……」

 ピキリ

 瞬間、私は石のように固まり頭の中の田神先生が一気に隅に追いやられる。

 だって、それも仕方ないだろう。


 頭の中がフワフワしていてぼーっとしていた私を零士が手を引いて連れ帰ってきたんだから。


 一生の不覚!

 そう思うくらい記憶から消したい出来事だ。

 私が零士の世話になっちゃうなんて……。

 しかも方向音痴のあいつに連れて来られたとか!


 零士は愛良の気配だけはそこそこ遠くからでも分かるらしい。

 そのおかげで寮の方向は分かっていたから迷うことはなかったらしいけど……。


 どんだけ愛良しか見てないのよって感じだけど、私が唯一認めている部分なのでそれに関しては何も言わない。


 とにかく、私に取ってそれは黒歴史だ。


「愛良ちゃん、大丈夫。赤井くんと聖良に限ってそれは絶対にないわ」

 何か悟ったような表情で嘉輪が言う。


「そうそう。赤井って愛良ちゃんしか見えてないし」

 続けて正樹くんがそう言うと、愛良は目に見えて真っ赤になった。


「そうっ、でしょうか……?」

 そんな愛良を見て、ああ……もう確実だなって思う。

 愛良が誰を選んだのか。

 嫌でも分かってしまう。