「でも、根回ししようにも初日から愛良さんの呼び出し事件があってやることも増えてしまった。そうしているうちに君が他の男に血を吸われてしまったんだ」

 怒りと悔しさを耐えているような表情で続ける。


「不思議だよ。会って話した時間だってそれほど多いわけじゃなかったし、君を知る機会だって少なかった。なのにいつの間にか、気持ちだけが膨れ上がっていたみたいだ」

「……」

「君の血の気配を察知して、誰かに咬まれたんだと理解した瞬間頭が真っ白になった。岸の腕の中にいる君を見て、あいつを殺してやりたくなった」

「せ、ん……せい?」

「あの時自覚したよ。俺は君を好きなんだって」


 冗談でも嘘でもない。

 そう真剣な目が語っている。


 そして、その目が優し気に細められた。

「今はまだ先生と生徒だからね。手を出すつもりはないよ」

 言いながら、私の右手を取る。


「でも、あと一年と少し。高等部を卒業したら容赦はしないから、覚悟しておいてくれ。聖良」

 チュッと、右手の指先にキスを落とされた。

 続いて大人の色気漂う微笑みを向けられて――。



 私はのぼせてしまったように頭が熱くなって、その後どうなったのかよく分からない。

 どうにか寮に帰ったんだと思うけれど、その日は夜までの記憶が曖昧だった……。