そんな時、コンコンと保健室のドアが叩かれた。

 入ってきたのは、かなり汗をかいたのか髪が額に張り付いている正樹くんだ。


「ごめん、あいつ取り逃がした」

「え?」

 申し訳ないと言った顔で岸を捕まえられなかったことを話す正樹くんに、嘉輪が驚く。


「あいつ、聖良さんの血を飲んだんだな? あり得ないくらい早くて、色々手を使って足止めしようとしたけれど、その足止め自体が間に合わなくなってきてさ……。ごめん」

 項垂れるようにもう一度謝る彼を嘉輪が「いいよ」と止めた。

「聖良の血を飲んだのは分かってたのに、正樹一人に追わせた私が悪かったんだし」


 そうして、「でも」と思いつめた表情になる。

「聖良の血で正樹が追えないほど早くなるなんて……思っていた以上に聖良の血の力が強いわね……」

「え?」

「……ここまでくると本当に“花嫁”が二人いる状態だわ。あいつも取り逃がしてしまったなら、気を引き締めていかないと」


 嘉輪の言葉に、吸血鬼である他の面々は表情を硬くして気を引き締めた様だった。

 当の“花嫁”である私と愛良は、彼らの様子に戸惑い、不安を募らせていった……。