【完全版】妹が吸血鬼の花嫁になりました。

 顔は目の前の赤井の方を向いているのに、その目は何も見えていないかのように焦点が合っていない。

 明らかに様子がおかしい。


「ちょっと! あんたお母さんに何してるの⁉」

 異変に気付くとすぐに私は赤井の腕に掴みかかり、お母さんの肩から彼の手をどけた。

 赤井は一瞬顔をしかめたけれど、すぐにフンッと鼻を鳴らしておとなしく座りなおす。


「そいつ――愛良は城山学園に転入することが決まっているんだ。それを断るなんて選択肢は初めからない」

「はあぁ?」

 あまりの一方的な赤井の言葉に私は怒りの声を上げた。
 でも私のことなんて全く気にせず彼は続ける。

「でも一方的にそう言ったって納得する親なんかいないだろ? だから、最初からこうして催眠術を掛ければ良かったんだ」

「何それ? つまり今のは催眠術を掛けたってこと?」

 言いながらも私は半信半疑だった。


 催眠術なんてテレビとかでしか見たことがない。

 しかも成功しているかどうかなんてテレビ番組じゃ分からない。ヤラセかもしれないし。


 それがこんな高校生に出来ることなの?

 実際には出来る人もいるかもしれないので、赤井の言うことを信じるべきなのか迷う。


「零士、お前の言いたいことは分かる。実際出来るなら最初からそうしてた」