「さて、と」


 息一つ乱さず《それ》を倒した櫂人先輩は私に視線を戻す。

 冷たさすら感じる黒い瞳にゾクリと背筋が凍った気がした。

 明らかに人ではないモノを難なく倒した櫂人先輩も人間離れしている。

 その強さが、純粋に怖いと思った。


 ……でも、それでも目が離せないのは……やっぱり惹かれてしまっているから?

 怖いと思うのに、離れたいとは思えなくて……むしろ……。


「櫂人! いたか⁉」

「っ⁉」


 闇の化身のような櫂人先輩に見惚れていると、大通りの方から櫂人先輩を呼ぶ男の人の声が聞こえてビクリと肩を揺らす。

 思わず振り向くと、明るめの茶髪の男の人が近付いて来るところだった。

 年上だとは思うけれど、そこまで離れている様には見えない若い男の人。