「恋華……? お前、なんでこんなところに?」


 呼ばれて始めて私だと気付いたらしい櫂人先輩は、神秘的だった雰囲気を崩し素で驚いた表情をした。

 でもすぐに真剣な顔になる。


「いや、今はコイツが先か」


 そう言って先程投げ飛ばしたモノに視線を向ける。

 私も上半身だけ起き上がり、櫂人先輩の視線を追うように《それ》を見る。

 《それ》は丁度呻きながらも立ち上がろうとしているところだった。

 赤い目を櫂人先輩に向け睨みつけている。

 櫂人先輩は怖がるどころか冷たく見返し、《それ》よりも先に動き出した。

 でも動き出したのが分かっただけで、その後何がどうなったのかはよく分からない。

 暗さもあるけれど、動きが早くて目で追えなかったんだ。

 気付いたときには、《それ》はうつ伏せ状態でアスファルトに伏して気を失っていた。