でも、私のその判断は間違っていたらしい。

 《それ》は私が逃げそうだと判断したのか、投げたビールケースをものともせずに突進してくる。


「あっ! きゃあっ!」

 そのまま押し倒され、圧し掛かられる。

 もうどうすることも出来ない状況に、恐怖で体が強張った。


 獣のような赤い目に喜びが宿るのが見え、赤く染まった口元がニヤリと歪められる。

 その口がグワッと開かれ長い犬歯が見えた途端、咬まれる! と痛みを覚悟した。