「恋華を――俺の“唯一”の大事な女を返せ!」


 ひと際大きく吠えた櫂人は、大橋さんの顔面に拳を当てる。


「ぐぁっ!」


 櫂人の拳はしっかりと入ってしまったようで、肩を掴まれていた手が離れ代わりに櫂人に優しく抱きとめられた。

 ふわりと櫂人の香りに包まれて、抱きつきたいのに腕が思うように動かせない。

 嬉しくて、悲しくて涙が次々と零れ落ちる。

 そんな私の耳に、カラン、と小さなものが落ちる音が聞こえた。


「恋華⁉ 熱い……これは、まさかっ」

「櫂人! 恋華さんに私の血を! 早くしないとヴァンピールになってしまうわ!」

「っ!って、え? かあ、さん?」


 私の様子に焦燥を見せる櫂人。

 少し離れた位置にいる真理愛さんが叫び、今の今まで彼女の存在に気付いていなかったらしい櫂人が驚きの声を上げた。