『お前を、失いたくない……』


 蘇るのは櫂人の震える声。

 吸血鬼になってでも側にいたいと思える相手。

 彼を――一人にしたくない。


「っ!」


 滲んできた涙が零れる前にグッとこらえた私は、ためらうことなく自分の手首に嚙みついた。

 血を流さなきゃ。

 瀉血が出来ない以上、自力で血を抜いてしまわないと。

 そうしなければ、大橋さんの目論見通り私はヴァンピールになってしまう。


「おっと。させると思うかい?」


 でも、皮膚を噛み切って血を流す前に腕を掴まれ阻止されてしまった。

 そのまま後ろ手に拘束されてしまう。


「嫌! 離して!」

「凄いな、ためらいもなく自力で血を流そうとするとは……君みたいな強い女性は嫌いじゃない」


 保健室で会ってから嘲笑ばかりだった大橋さんが、初めて私を称賛する言葉を放つ。