今、大橋さんは何と言った?

 ヴァンピールを解き放って?

 その言い方はまるで、自分がやったとでもいうかのようだ。


「二年前、初めて彼女に会ったときすぐに分かったよ。彼女こそが私の“唯一”だと」


 大橋さんは懐かしみ、とても嬉しそうに目を細める。

 まるで愛しい相手が目の前にいるかのように。

 ……でも、さっきの発言の所為だろうか。

 その喜びに満ちた目の奥に、狂気を感じてしまった。


「すでに夫と子供がいたけれど、そんなのは些末(さまつ)なことだ。吸血鬼の“唯一”同士は惹かれ合うのが当然。だから彼女は私のもとへ素直に来れば良かったんだ」

「な、にを……?」


 感じ取った狂気が確信となり、一歩後退りする。