「恋華……お前がいなくなったら、俺はきっと狂ってしまう。だから……」


 だから、吸血鬼になると言ってくれ。

 言葉には出さなかったけれど、そう言われた気がした。

 私は一呼吸置いてから微笑んで答える。


「いいよ。……そのときがきたら、私を吸血鬼にして」

「恋華……ありがとう」


 ホッとした櫂人は、そのまま私をぎゅうっと抱きしめる。

 私も彼の背中に腕を回し抱き返した。


 吸血鬼になるなんて、きっと何も知らなかった一昨日までだったら拒否していたかもしれない。

 でも私は知ってしまった。

 櫂人という吸血鬼の存在を。

 本当の吸血鬼は、伝説やヴァンピールの様な化け物ではなく人と同じ温かな存在なんだと。

 そして、私をずっと想っていてくれて……ただ一人の存在だと求めてくれる櫂人。

 彼を残して、死んでしまいたくないと思ったから。

 だから、吸血鬼に……櫂人と同じ存在になることに抵抗はほとんどなかった。


 その夜は幾度も唇を重ねて……ただお互いの腕の中で安らかに眠った……。