もっと、命令したい



私は〇〇駅の改札前に着き、身だしなみを整えて、先輩を待っていたら。

「ねえ〜ねえ〜?俺と一緒に昼から飲みに行かな〜い?」

「俺の方がいいよ〜?」

と言われた所以だ。


はぁ〜〜〜。2回目のナンパですけど?
……やっぱり、ナンパ男はチャラいのか。

1回目は思い出さなくていいぞ……!!秋風楓……!!!


じゃなくて!!


「ねえー聞いてるー?」

「俺さー……マジのタイプー!」

「マジで!?」

「「アハハハ!!!」」と笑いながら、お互いの顔を見て、見終わったら、私の顔を見て、ペロリと舌を舐める。

そのとき、私の体は、背筋からゾワゾワっと、気持ち悪い感覚で襲われた。
それは、鳥肌と言うもので。

……ヒィっ!と言いながら、私は、鳥肌が首にも、腕にも立っていた。

やばい。私って、ナンパ男に引っ掛かりやすいんですか……?!


「ねえーねえー?聞いてるー?」

「俺の話、聞いてくれなーいー?」

聞きたくありませんよ。このナンパ男!!
って思ってるけど……言ったら、どんな目に遭わされるか…わかんないし……!!


うわああああ!!どうしよう!!!

あっ!!!

………ベタな言い方だけど!!

私はぎゅっと鞄を握り、

「あ、あの……私、彼氏いるんで……?」

背が小さい特権なのか、無意識に上目遣いになりながら言っていた。
疑問形になりながらも。

だけど、疑問形のなっていたのに、ナンパ男は、

「……っうわぁ〜可愛いぃ〜」

「ねえ、マジで、俺、好きになりそう……」

気にしてないし。


やばい!!!
何これ!!開き直ってんじゃん!!!

ナンパ男2人は開き直っているし。


私を顔でしか見ていなかったのだ。


……えーと!!えーと!!?どうしよう!!!


ぐるぐると回る頭。だけれど、頭は真っ白。

何も考えがつかない……。

そう思っていたら……

「ねえーー「楓。ごめん遅れた」

ナンパ男の声を遮った、一見、爽やかそうな声。
だけれど、私には、意地悪の声に聞こえた。


「……あ、あいつって……」


「「AoBaじゃん!!?」」

さっきまでは、笑い声しか揃ってなかった2人が、先輩の芸能人の名を意気投合して、声を発していた。

「……あれー?知っててくれてありがとー?」

「………」

さっき、ぺちゃくちゃとうるさいくらいに喋っていた、ナンパ男2人はどこ行ったんだろうか。
今は、沈黙だ。口をチャックしたように息を飲んでいる。


「……ねぇー…。聞いてる゛?お゛兄さーんたぢ?」

「「ひっ……!?」」

さっきまで、私をナンパして、余裕そうにしていた笑顔はどこに行ったのか。

男2人は……私の前から、引き下がり。
その後ろに、先輩が怖い顔で男2人を見てる。

「俺の彼女に何するのーかーなー?」

顔は笑っているのに……、目は笑っていない。

よくあるモテ男の顔……と少しだけ私が思ったのは気のせい。

私は、ギュッと強く鞄を握って。
コンクリートを見るしかないのだ。

先輩の顔が怖すぎるから。

それは………。

「……も、も、あ、AoBaの…彼女には手は出さないよー……アハハハ」

「……そうだよ……行こうぜ……!」

私をナンパした男たちも、同じだった。

先輩の顔を見ないように、〇〇駅の辺りを見回して、私も見ないようにしているのだ。

私の頭の中がそう思ったとき……先輩を……この人を……

「ねえー。それ、被害者側がさー…セクハラだって思ったら、訴えられるんだよー?」

「す、すいませんでしたぁー!!!」

怒らせては不味いとまた思ってしまった。

また。

そうまた思ったのだ。
2人目だ。

そう思ったのは。


「大丈夫?楓?」


その声で、私は我に返り、

「は、はい!」
と先輩に言う。

「本当に……?」

心配そうな瞳。


「はいっ!」

先輩が遅れて来たなんて嘘だ。

絶対。100%。
でも、先輩をそんなに信じていないの?と思う方もいるでしょう。

うーん。信じているは信じているけど。

にやける顔をしていると信じていないからー……どっちなんだろう?


信じてるのかな?


先輩のことを?


「楓ー。行くよー。」

「あ、あの……全然気づかなかったんですが……」

「ん?何?」

営業スマイル……。
小声でボソッと言うけれど、それは先輩には聞こえていなかったようで。

私は、本題を頭の中で切り替える。


「あのー……、服、ダサすぎません?」


「あー……気づいた?」

そう。先輩の服装が……超ダサいのだ。