「ねえ……俺のお父さんの友達さ、ここの校長でさ、オネエな親父頼まれてさ。なんなんだよ。……最悪」
………私に愚痴っているんですか?
ノートに月日を書き、問題を書いていたら、先輩が私に愚痴っていた……。
嬉しくないですよ。
「あ、あの?先輩?私……授業聞きたいんですけど……」
はい。今、授業中です。
2時間目の。数学の勉強中なのに──────
私の耳の横からさ、芸能人に声かけられるなんて……いや、愚痴られるなんてさ。
──────一生有り得ないと思ってたのに。
「………それさ、簡単だよ。XとYを割って……「言わないで……ください」
目を少しだけ潤ませると。
「その顔、久しぶり」
目を一瞬見開いて、ニヤアと笑う。
中学でも見た。
このニヤニヤの顔。
いつも、私を見下すときに使う顔だ。
「………(ムカッ)」
そりゃあ、私はむかつきます。
頭にカチンと来ます。
「あぁ〜。楓ちゃんの顔が台無し……だね?」
「……本当に…先輩、みんな先輩に夢中です……!!」
これを言えば……!!大丈夫!!
なんて、安心した私が馬鹿だった。
「へー。嬉しい」
「……ぼ、棒読み……」
「分かる?嬉しいな……楓が分かってくれるなんて…!」
「あの……本当っにっ!集中したいんですっ!!」
と言い終わったあと、嬉しいことにフォローをくれた人がいた。
「それは、秋風に同意だな。」
そう。数学の先生だ。
数学の先生は、いつも数学が好きそうに説明してくれるから、私も好きになる。数学が。
「えー。俺、つまんねえだもん。センコー」
はっ?つまんない?
そんなことをクラスのみんなが思ったのも確か。
顔がみんな一緒で、ポカンと口を開けていた。
「お前なぁ?……頭がいいからって、グチグチ喋るんじゃねえよ。」
「……センコー。許してよー」
「いやだな。校長が頼まれてる分、監視も含んでいるんだからな」
「………」
「あと、お前の兄でもあるんだし、ちゃんとしてるところを生徒に見せろよ」
えっ?
兄?
「イクメン先生が……?」
やばい。口に出してしまった。
だが、それは良いと言えるだろう。
だって、あの数学の先生が……イクメン先生に弟がいるなんて……!
イクメン先生は、奥さんの溺愛が凄すぎて、やばいと噂されてる人だ。
娘さんにもぞっこんらしいけど。
それ以外は、冷血の目をしてるらしい。
「……嘘おおおおお!!!?」
「あっ………嘘でしょ……!!?あのイクメンに弟が…いるなんて……!!」
灯もポカンとしていた。
私もびっくり。あんぐりの下ぐらいかな……?
「あぁっ。AoBaこと、透は俺の弟だけど……まずは、透、お前、この秋風以外にも、問題、見てやれ。」
「いやだね」
ええっ……?!
「あの……せ、んぱい。」
「何?」
「見てあげてください……私も真剣に数学の問題に臨みたいので……」
「わぁったよ」
「はぁっ」と言いながら、髪をくしゃくしゃとやる。
「ありがとうっ。先輩っ!」
「……っあぁーっ。まじでさ……綺麗なんだけど?」
私の笑顔が綺麗。
そんなの気のせい。
そう心に言い聞かせて、私は、先輩に言う。
「……あの先輩!!いってらっしゃいっ!!」
と。
そのとき。
行け。行け。
呆れながら、そう思った。



