もっと、命令したい


「……先輩っ?」
と言おうと最初の1音を出そうとしたとき!

「せ……っ!?」

私に密着する、先輩の体。
そう思っていたとき、私の体を縛っている先輩の手が、強められた。

「……ひゃっ?!」
私は変な声を出すけれど。


「……お前が好きだ」


……先輩、いきなりの告白。


「えっ?」

はい。私はそりゃあ、頭が追いつきません。


「……楓…俺と付き合って」

私の耳横で吐息とともに聞こえる先輩の声。

先輩は、声優だからか綺麗に聞こえて。


「……は、はいっ?!」

私の頭が追いつかない。

「さっき、王政義數と俺の話。……楓は聞こえてたんでしょ?」

な、なんで分かるの……?!
と思いながら、先輩を見ると、「当たってる」とニカっと笑って。


「……奪うの意味は……?」

私は、まだ、奪うという意味が分からなかった。

王政さんの言った、『奪う』も、先輩が言った『奪う』も。


「楓が見つけて欲しいなぁー……?…というか、告白は?」

……え?

「……っあれって告白だったんですかっ!?」

「え」

「……てっきり、ドラマの台本を私に言ったのかと……
中学生の頃もやってたから……」

「……はぁっ」とため息を吐きながら、先輩はその場でしゃがむ。


私、勘違いしてたの……?!


と、というか!?先輩、マスクをしたから……息切れしてる?!

そう。先輩は、ずっと、マスクをしていた。
私が選んだ服のコンビーネーションの緑色のマスク。

「……だ、大丈夫ですか?」

私も、先輩がしゃがんだ場の隣へとしゃがむ。

「はっ?」

その声と一緒に顔も声と同じ顔をしている。

「ま、マスクで息切れしているから……」

「……どんだけ鈍感?楓は?ムカつくけど、そこも可愛い……」
そう言いながら、私の頭を撫でる。


「……?」

だけど、それに、私、秋風楓には効かないようで。


『アキカゼカエデハ、イケメンノエガオノドクハ、キカナイヨウダ!』

はい。その通りですけど。

だって、先輩というイケメンが、夕日の逆光で綺麗な笑顔が照らされて。
少しだけ頬が赤くなっているのが、夕日の光で分かる。

かっこいいけれど……王政さんよりはイケメンじゃないなぁー。

……ん?


王政さんをなんで先輩と比べた?

「……さて、俺は楓にもっと、アタックしないと…!」
先輩はそう言って、立ち上がるけれど、私は、少しだけ疑問が浮かぶだけ。

私は先輩が立ち上がったのに、気づいて、私もそそくさに立ち上がる。


「……じゃっ……またね。楓」

先輩は私の頭を撫でると思いきや……

「……っ?!」

私の口にキスをした。


マスク越しの。



「……好きだよ?本当に?これ……演技じゃねえから…な゛?」

これを見たら、私以外の女性はすぐに……「好きですっ!」と言いそうだけれど。

私は、

「……っ!?」
本当に、イケメンの笑顔の崩壊さに耐性があるようで。

私、秋風楓は、“普通”の顔を赤らめるだけ。


「……本当の……じゃあねっ楓?」

私の顔を伺うように見る先輩。
だけれど、先輩の顔が、楽しそうな顔で、私を見ている。


「……せ…んぱいっ?!」

私は私の口を自分の手で隠す。

私はやっと思考が追いついた。


「じゃあねっ?またっ……」
片手を振りながら、私がいるところから、去って行った。



……キス……しちゃった……?


秋風楓、高校一年生。

少女漫画風に言ってみるけれど。

全然形にならないまま言います。


芸能人(御曹司)と有名人気モデルに……




……キスされました。