はい。これが……悲劇の始まりでした。
「楓ちゃぁ〜ん!!笑ってぇ〜!!」
なんて声が、私にかけられる。
オネエ?なんて思うけど、私はそれどころじゃない。
「もっとー笑ってぇ〜!!もっとぉーー!!」
笑えないよ。
芸能人、ある有名モデルでも無いんだから。
知ってるよね?
この周りにいるスタッフさんたちは。
なのに……「笑ってー!!」とか、「笑う方が綺麗だよー!!」なんて言うなんて。
突然、笑うなんて。
出来ないし。
だけれど、私の隣に座っている人たちは……ニコニコと爽やか笑顔で、カメラを真っ直ぐ見ていて。
単純にすごいな。と思った。
こんなに綺麗な笑顔が作り笑顔なんてもったいない。
そう思っていたとき、魔王様が私の耳元で。
「笑って」
と囁いた。
「……っひゃっ…!」
私はびっくりしながら、魔王様のことを見る。
魔王様の顔は、私を意地悪したい。という顔で。
私は……顔を赤らめて、心の中では……。
もっと、笑えないだろう!!!この野郎!!!この意地悪魔王!!!
先輩より、意地悪じゃないか!!
……大騒ぎだった。
ここで、私の耳が弱いことを武器にするなんて……最低だ。
「……フッ。可愛いねー。俺の「嫁じゃないです!!」
小声で私はスタッフさんにも、先輩にも聞こえないように、魔王様に話す。
「そうか。……じゃあ」
根こそぎ奪い取るまでだな?
息も付いてきて、私の耳に囁く、私の好きな(自分は認められない)声。
「……っひゃっ!?」
「……っ?どした?楓?変な声、出して?」
「い、いえっ!」
「……俺と話してただけだ。AoBa。」
「……こいつと話すとろくでもねえ話すんだよなぁー」
あ、やばい。
先輩、怒る。
もう……この口調は……。
「……ねえ?楓?」
怒りますよね?
「はいっ!なんでしょうか?先輩!」
笑顔で、私は先輩を見る。
だけれど、心の中は超焦っていて。背中に冷や汗をかくほど。
「その笑顔をカメラに向けさせれば良いのにねー」
なんてヘラヘラ顔だったけれど、一瞬目を見開いたような気がするが……私は気づいてなくて。
怒らなくて、ホッと安堵の息を吐いていたから。
「……それは…一般人なの「向けられないように、俺がする」
一般人という言葉で逃げようとした私。
いや、妥当だから。
こんな一般人の笑顔を見せられたところで……。
「はいっ?!」
……全員、見たくないよね?
「……絶対、楓の笑顔は俺だけのものだから」
久しぶりの甘々魔王様だけれど。
私は……
「……も、もの判定って……」
“もの”って。
花奈さんは“きっと”人判定で……私は“もの”か。
すごいな……。
ここで、花奈さんが出てくるものも不思議だけれど。
「ねえ、楓をもの判定するのは、酷すぎだよね?」
先輩が怒るのも……不思議じゃないっ!!!
で、でも……怖い怖い!!
なんで、こんな顔ができるんだ?!!
目が笑っていない笑顔。
「酷すぎってなんだよ?」
それとは裏腹に、魔王様は、額に血管が浮き出ている。
「だって、俺のものって……マジで、もうアタックしてんのにねー。だけどさー。王政義數でも許さないし、譲らねえからな?」
「……お前、マジで……殺すぞ?」
王子様の服を着ている2人は、王子様ではなく、間違いなく魔王で。
この王子様の服より、悪い魔王様の服を着た方が良いよね………?
そして、私は、ここで、今、魔王様と先輩のオーラは……。
……オーラではなく、覇気だと感じた。
私は喧嘩を止めず、ポカンとした口を開けたいと思ったが、口を閉めて、魔王様と先輩を見ていた。
「ちょいっちょいっ!!俺の方見てくれないとー!!悲しいなー。」
「シクシク」と言いながら、泣きたい、寂しいモノマネをするカメラマンさん。
……ここで、魔王様と先輩の喧嘩を突っ込むとは、色んな意味での、勇者だ。
なんてことを、スタッフ全員が思っただろう。
魔王様と先輩の覇気が強すぎて、みんなが黙っていた。
だから、スタッフさんたちは思ったのだ。
だけれど、私は、魔王様と先輩の喧嘩は……もう止めれないと思っていたので。
私は、心の中は感謝でいっぱいだった。
ありがたや〜〜。
と思いながら、カメラマンさんを見ていた。
「……おい。上尾。もうちょっと、モノマネをあげろ」
「え〜っ。……でも、楓ちゃ「おい。楓ちゃんじゃなくて、秋風さんと呼べ」
その話し合いを見て、私は、クスッと笑ってしまった。
やばい。笑っちゃう……!!
そして、私にカメラマンさんが聞いた。
「え〜っ。良いよね?!楓ちゃんっ!」
遠くからでも分かるキラキラと輝かしい瞳で、私を見る。
「えっ?あ、良いですよ?」
「楓?!」
私を見て、びっくりする魔王様。
そ、そんなに……びっくりしなくても……。
と思っていたら。
先輩が。
「俺は魔王様が、悪いと思いまーす。」
と言ってきた。
「私もぉっ!1票っ!」
とカメラマンさんも、先輩と同意見。
だけれど、私は、分からなかった。
魔王様が悪い……?
「……どういうこと?」
私は無意識に声を発してしまう。
「えっ?あー。……楓は知らなくていいよ?」
「は、はぁっ。わ、分かりました。」
「……まぁっ。でも、やっと、楓が笑ったから……コチョコチョだぁ〜〜!!」
先輩が意地悪の顔をしながら、私を見て、両手が動いている。
「……ひゃめてくださぁ〜〜いい!!」
やばい……っ。
「アハハハっ!!アハハハっ!!」
私の笑い声が響いて、シーンと静かになる。
ん?と私は思うけど、コチョコチョがくすぐった過ぎて、考えてられない。
「か、可愛いすぎでしょぉ〜っ!!?笑顔がこんなに可愛いなんてぇ〜!!」
「可愛くないっ!?楓さんっ!?」
「……可愛い」
男のスタッフさんが頬を少しだけ赤らめて、私を見てくる。
だけれど、それに気づいたのか、魔王様と先輩は。
ギロっと怖く、これでもかと言うくらいの睨みで、その男のスタッフさんを見ている。
その男のスタッフさんは、魔王様と先輩の目線を逸らして、私を見ないようにしていた。
「く、くすぐった、いぃ……。や、やめて……!!」
もう。無理です。
……くすぐったすぎて。
私の体をくすぐったところが、ジンジンと体が響いていて、顔が…とろんとしてしまう。
それに気づくーーーーーーーーー
「……っ…!?」
ーーーーーーーーーー顔を真っ赤にする先輩と。
「……おい。AoBa……」
ーーーーーーーーーー今にも私を抱きしめたい瞳で私を見ている魔王様。