カードを警備員に見せる先輩。
「どうぞ」と警備員が先輩に言う。
階段を上る。
部屋がいっぱいある。
すごい。人がいっぱーい。
やばい!!!心の中の言葉が……小学生だ!?
私は視界で見渡すか、心の中で何かを言うことしか出来ない。
先輩は驚愕することもせず、「こんにちは〜。お疲れ様で〜す。」と愛想笑いで、人を見て、お辞儀を少しだけする。
それを、私は見て、お辞儀をひょこっとして、先輩に私の腕を掴まれたまま、連れ去られる。
……ここはどこだ?
やっと、疑問が私の心の中に湧いた。
だけれど、その疑問は一瞬にして、消される。
「おはようございます。今日もよろしくお願いします。」
ぺこりと綺麗なお辞儀をする先輩。
さっきの少しだけのお辞儀より、深いお辞儀だ。
先輩……?これは……?
どういうことですか……?
なんて、私は、喉から声が出ない。
だって、景色が………。
なんたって、モデルが撮る広く、大きいスタジオなのだから。
綺麗な照明。
白い壁紙の真ん前にスタジオよりも、もっと小さい、カメラが置いてあって。
そのカメラより後ろは、メイクのスタッフさん、電話で何か話しているスタッフさんたちが、いたりして。
何にも、私には分からない。
だって、私は、このモデルという業界すら知らないし、素人の目で、モデルを見ているのだから。
「……フッ。大丈夫〜?か・え・で?」
私の状況を上から目線で伺うようにする先輩。
「……だ、大丈夫じゃないです……な、なんで、ここに、私はいるんですか……?」
やっと、聞けた。
なぜ、私はここにいるか。
もう、外の状況を伺うことしか出来ない。
内=私は何故ここにいるかは分からなかった。
「……それはーね。俺のパートナーになって欲しいからか、な?」
この声はスタッフさんたちに聞こえていたようで、ざわっと騒めき出す。
それとは裏腹で、私は、
「はぁあああっ?!」
大声で、先輩に対抗する。
「AoBa君、彼女いたのかね?!」
「おめでと……「おはようございます。」
爽やかなのに、裏はドス黒そうな、私たちに挨拶する声がする。
私はハッとして、目を大きく見開く。
この声は。
この声は……毎日聞いた。
私を安心させてくれた。
な、んで……?
「久しぶりだな……楓」
少しだけ、ぎこちなさそうな声で語りかけてくる人は。
王政義數という人は……私の元同居人であり、魔王様でもあり。
私の……好きな人。
心の中に強く、私は胸を打たれる。
な、なんで、ここにいるんですか……?
私はぼそっと呟くけれど。
「楓?」
先輩は本当に心配そうに、私を見ていて。
魔王様、王政義數は。
目を見開いて、終わったら、私の方を逸らして、私と先輩たちを見ていなかった。
それを見た、私も、気まずくなり、視界から王政義數を見ないようにした。