「おっと。ここから先は金取るぜ?」


それは凄むようでもなく、あっけらかんとした声色だったけれど。

どことなく含まれた危険な響きに、クラスがもっと静まりかえるのがわかった。


アンドロイドはなにも言わず、わたしの手をとって歩き出した。

そうして廊下に出る手前、ドアに手をかけて教室を振りかえったアンドロイドの顔を見て、わたしは息を呑む。

瞳孔が、ひらききっている。



「こいつがどれだけ不安だったかお前らにわかるか?自分を変えることを決めたとき、こいつがどれだけ怖かったか。それがお前らにわかるのか?」


その黒曜石のような瞳は、真っ直ぐにわたしの頭の上を通りすぎ、その向こう側に向けられていた。



「俺には感情がねえ。だけどな、そんな俺でもこいつの痛みは伝わってきたよ。ロボット以下のお前らに、この涙を見る権利も価値もねえよ」


ひときわ大きな涙がこぼれ落ちた。

胸の奥がちりちりと焦がされるような感覚になって、うっ、とかすかな嗚咽が混じる。


はじめは呆気にとられていたクラスメイトたちも、自分がなにを言われているのかようやく理解したのか。

しだいに教室がザワついてくる。



アンドロイドのくせに。なに偉そうなこと言ってんの?ていうかうちら、関係なくない?そうだよね、なにもしてないし。お前になにがわかる。アンドロイドのくせに生意気なんだよ。



……ああ、これって。

いままでわたしが言ってきたことだ。

アンドロイドのくせに、とか。アンドロイドになにがわかる、とか。


そういうの全部、ただの悪意でしかなかったんだ。

次から次へと飛んでくる悪意の矢だった。


アンドロイドがわたしの手を引いて、自分の後ろに隠すようにした。

ハサミの刃からわたしの髪を守ったときのように。

その身に傷ひとつ付けることなく、そのすべてを跳ね返して。

アンドロイドは嘲うように突き放すような笑みを浮かべたのだった。





「あとはお前らだけで、勝手にやってろ」