「ねえ、どうしたの?ナナらしくないよ」
その言葉に、胸がぎゅっと詰まったようになる。
ナナちゃんのような人でも、らしくないと言われることがあるんだ。
そこまで思って、わたしは自分の犯した過ちに気付く。
……“ナナちゃんのような人でも”。
ああ、そうか。
わたしだって理想のナナちゃんしか見ていなかったんだ。
「……らしい、とか、らしくない、とか。それってそんなに大事なことかな」
「は?」
潤っている瑠衣ちゃんの瞳がようやくこちらに向けられた。
その大きな猫目で睨みつけられ。
わたしはいまにも竦んでしまいそうになりながらも、必死で言葉を続ける。
「ら、らしくなかったら、なにかいけないことでもあるの?」
「あんた、なに言って──」
「それって結局、自分の理想を相手に押しつけてるだけだと思う。わたしも押しつけたし、押しつけられたから。そう、だったから。だから、わかる──」
ガンッ、とするどい音が教室に響きわたる。
瑠衣ちゃんが机を蹴り上げたのだと気付くのに数秒を要した。
「あんたなんかにわかってたまるかよ!!」
これでもかというほど見ひらかれた瞳は真っ赤に染まっていた。



