教室に入るときの緊張感はたぶん、想像に難くないと思う。
だって1ヶ月近く休んでいたのだから、ひさしぶりの登校は足が震えるくらい緊張した。
何度も引き返しそうになりながらも教室の前まで来ることができたのは、わたしが一人じゃなかったからだと思う。
隣にはアンドロイドがいた。
「なあ、おい。ありゃなんだ」
視線の先を追うと、そこにはダンボールで作られたボードや着ぐるみが無造作に置かれていた。
「……文化祭の出し物の残りだと思う。わたしが休んでる間にあったみたいだから」
「ブンカサイ」
「日本の文化の文化に、祭りって書いて、文化祭」
「祭りか!文化祭、またあるのか?楽しいのか?祭りっつーことは食いもんも出るのか?」
「近いってば」
思わず苦笑しながら、わたしはすんなりと教室のドアを開けられたことに気付く。
遅い時間に登校したから、もうほとんどクラスメイトはそろっていた。
みんなそれぞれの場所でお喋りをしていたけれど、わたしがいることに気づいた瞬間、驚いたように顔を突き合わせて始めて。
わたしは教室中の視線を集めながら、とある席へと向かった。
相変わらずふたりの世界を築いていたナナちゃんと瑠衣ちゃんは、それぞれ表情を浮かべてわたしを見上げた。
向こうはなにも言わない。
わたしがなにか言うまできっとにも言われない。
心の中で何度も平常心、平常心と唱えた。
ぱっと笑顔になるよう意識する。
「おはよう」
「もういいの?」
もういいの。
それは一体なにがだろう。
体調が、というよりは。ぐずっていた子供に対する声かけのように聞こえる。
そんな些細なことにだって、一度崩れたわたしの心はひるんでしまう。
考えたのだ。
考えて、やっぱりわたしは、ここに居させてもらうしかないのだと。
変わることで居場所を失うくらいなら、わたしは今までどおり、"余り物のあまり"でいよう、と。
わたしはふたりの前で、へらりと笑った。
「うん。学校が恋しくなっちゃった」
こうしてまた、いつもの日常が戻ってきた。



