ブルー・ロマン・アイロニー



「なんで俺が出ていかねえかって?」


お粥の入った器を持ち上げたアンドロイドはスプーンで掬ったそれを、ろくに冷ますこともなくわたしの唇に押しつけてくる。



「それはな。お前が俺のマスターだからだよ」


うすく開けた口にお粥が入ってくる。

なんの変哲もない、ただのお粥だった。



「たとえ冷たくされたところでどうとも思わねえ。お前もよくわかってるだろうが、アンドロイドに心はない。抽象的な意味合いじゃねえ。お前らで言う心臓が俺たちにゃ備わってねえんだ」


冷蔵庫にろくな材料もなかったから、なんにも入っていない真っ白な、ふやかしたお米。



「だからお前にどう扱われようが俺は痛くも痒くもねえんだよ。なんとも思わない。でもな、お前は違うだろ」


咀嚼するまでもないそれが、空っぽの胃にするすると落ちていくのがわかる。

あたたかい塊を呑み込んだかのように、体の芯から温もっていく。



「人間には……お前には、心がある。自分の気持ちを無視するな。勿体ねえことすんじゃねえ」