「……つくったの?」
そういえば横になっている間、キッチンのほうから微かに音が聞こえていた。
コトコト、なにかを煮詰めるような音だったと今になって思う。
「ロボットの作った飯は食いたかないだろうけど」
ガラスのコップには琥珀色の麦茶が注がれていた。
切らしていたはずなのに、これもアンドロイドが沸かしてくれたのだろうか。
「お前、もう自分で作る気力も、買いに行く体力も残ってねえだろ?」
そういえば一切、家のことはさせていなかった。
自分のことを……たとえば口に入れるものや使ったりするものを、アンドロイドに任せるのは怖かったから。
「食べさせてやるから、一口でもいいから、食えよ」
コップに入った麦茶が揺れていた。
ううん、違う。揺れているのはわたしの世界。
震えて、揺れて、滲んで、わたしの世界はずっと不安定だった。
「なんで、ずっとここにいるの」
それはわからない問題を前に居残りを命じられたときのように、わたしは困惑を隠すことができなかった。
「冷たくして、ばっかりなのに。わたしなんか、いいところなんてひとつもないのに。なのに……なんで、ここを出ていかないの?」
わたしがアンドロイドを嫌っている態度はじゅうぶん、伝わっているはずなのに。
わたしなんかにこだわらなくても、早々に見切りをつけて出ていくことだってできたのに。
このアンドロイドはそうはしなかった。
皮肉を言いながらも、命令を無視しながらも。この一ヶ月近く。
アンドロイドはずっと、わたしのそばにいた。



