「……っ、は」


だけどやってきたのは、死に至るほどの衝撃でも痛みでもない。


どっ、という少しの衝撃となにかに包みこまれる感覚に、驚いて目をあける。


すると、そこには男の整った顔があった。


どうやら落ちてきたわたしを支えてくれたらしく、絵に描いたような無表情がこちらを見下ろしている。

どっ、どっ、と高鳴る鼓動はけっして男の容姿が好きな俳優に似ていたからじゃない、と思いたい。



「あ、りがとう……ございます」

「お怪我はありませんか」


平坦な声色で紡がれたそれが、わたしに向けられたものじゃないことはすぐにわかった。


さっきまでわたしに注がれていた視線は、支えられていた体と共にぱっと外されて。



──────マスター、と。


男がたしかな形をもってつぶやき、その感情を読み取れない顔を向けたのは。

彼の後ろから迷惑そうにこちらを伺うスーツ姿の女性だった。