「おや、あまりちゃん。おかえり」

「え」

「学校帰りかい?遅くまでお疲れさま」


話しかけてくれたのは近くの商店街で惣菜屋をやっている初老の男性だった。

わたしの姿を見つけるなり、嬉しそうに手を振ってくる惣菜屋さんがわたしも嫌いじゃなかった。

だけど、今日ばかりは笑顔で手を振り返せなかった。



「まり? なあ、じいさん。こいつの名前、まりっつーのか?」

「これはまた随分と男前な(あん)さんだね。親戚かい?」

「親戚ならこんなこと訊くわけねーだろ。で、じいさん。どうなんだよ」

「あまりちゃんだよ。藤白あまりちゃん。ね、あまりちゃん」


もうほんとうに嫌だ。この町、引っ越したい。


惣菜屋さんはそのあと、店を妻に任せてきたからと去っていった。



「そうか、藤白あまり。あまり、あまり」

「何度も呼ばないで。というか、一回も呼ばないで」

「んなこと言うなよ、マスターさま」


マスターとも呼ばれたくない。

それよりも、わたしの住むアパートはもう目と鼻の先だった。