その大きな手をにぎって、自分の顔に近づける。

わたしは何度もこの手に助けられてきた。



「わたしはすでにしあわせだったんだよ、ノア」


だから、逃げよう。

わたしは怖くないよ。

ノアがいたら、どこに行ったって怖くない。


だから、ノア。一緒にいこう────


ぐっと足に力を入れたわたしは、そこに走った痛みに思わず悲鳴をあげた。



「やめろッあまり!もういいから!」

「よくない!なにがいいの?なんにもよくないよ!!」

「ッ……!」

「せっかく自由になれたんだよ!ノア!やっと自由になれたんだよ!!」


それに、言ったんじゃん。

ノアが言ったんじゃん。



「死ぬまでわたしのそばにいてくれる、って……言ったのにっ」

「……ごめんな」

「謝らないでよ……!」


涙が止まらなかった。ぼろぼろと大量の涙が目からこぼれ落ちた。

もう泣いていないノアの分もわたしの目から溢れているようだった。



……なんで、



「なんで、わたしの大切な人は……っ、いつもわたしを置いて行っちゃうの……!」


お父さんとお母さんがいなくなった。

ルーカスくんもいなくなった。


それなのに、ノアまでいなくなっちゃうの?


やだっ……やだよ、ノア。



「おねがい行かないで。行かないで、ノア。なんでもするから、ノアはっ……ノアだけは、行かないでっ……!」