一体どれくらいの間そうしていただろう。


わたしはしゃくり上げながら、ノアの胸に顔をうずめていた。押しつけるように、つよく。



「……過去は取り返しがつかねえし、その事実も変えられない。だから人間は皆、今を必死に生きてるんだ」


ノア、そうつぶやくわたしの声は掠れていた。

きっと顔もぐちゃぐちゃで、目も真っ赤になって。

それでもわたしは生きていた。


喉がひりつくまで叫んだって、涙が涸れるくらい泣いたって、それでわたしは死んだりしない。

生きているんだ。まだ、わたしは。

必死に生きているんだ。



「……わたしは、今からでも幸せになれるのかな。お父さんもお母さんもいなくなったこの世界で、わたしのほんとうのさいわいは、見つかるのかな」

「見つかる。一緒に見つけていこう。お前は俺のマスターだからな。お前が嫌だっつっても、死ぬまでそばにいてやるよ」

「……えー……?」

「さっそくちょっと嫌そうにすんな!」


今日は日中よく晴れていたから、星もはっきりと見ることができた。

肉眼で見える大小さまざまな星をつう、と指でなぞっていく。

ベガ、デネブ、アルタイル。


星なんて興味なかったはずなのに、わたしはその名前を覚えてしまった。

クラシックの名前も、この町にあるおいしい食べ物屋さんの場所も、知りたいなんて思わなかったのに。

わたしの世界は、お父さんたちが死んだ時点で終わっていた。広がることはなかったのに。


もう上げられないと思っていた顔をわたしは自分の力で上げている。



「夜って、よく見たら真っ黒じゃないんだね」


月、星、いろんなものが散らばる透き通った夜空は、どこまでも高く遠く広がっていた。