「わたし、もう……思い出せないんだよね。お父さんとお母さんの笑った顔。最後に見た顔も覚えてない。……っ、つかれた、疲れ切った顔しか……っ、もう思い出せないっ……!」


どれだけ怖いことかわかる?

手元に写真が一枚もなくて、匂いの残った物もなにひとつなくて。

絶対に忘れるわけないって思っていたのに、毎日、毎日少しずつ輪郭がぼやけていく。


朝起きたら、次は、完全に忘れてしまうかも知れないって。

眠ることがどれだけ怖くなったかわかる?


最後に残ったのが大切な人の笑顔じゃなかったとき、どんなに悲しかったかわかる?



「わた、わたしがっ……わがままばっかり言うから……!だから、罰が当たったんだ……わたしの、わたしのせいで……お父さんたちは──……っ!」



膝ががくんと折れる。そのまま手すりに縋りつくように、わたしは座りこんでしまった。

もう一生顔をあげられないかもしれない。そう思ってしまうほどに首が重かった。



「……なんでわたしだけ生き残ってしまったの、いつも、っ、いつもわたしばっかり置いていく……!」

「……他には。全部出せ、吐き出せ」



「……────…………なんで死んじゃったの、お父さん……お母さん……っ、なんで」



────ふたりは死ななくちゃいけなかったの。


あのときのアンドロイドを心の中で何度も破壊した。殴って、蹴って、引き裂いて。そうして、むせび泣いた。しょうがないんだって、そう言い聞かせないと、自分が壊れてしまいそうだった。


だけど、だけど────




「あああ……あああああああっ!!!」


わたしは声の続くかぎり、泣き叫んだ。

わたしを抱き寄せたノアの背中に爪を立てて、喉から血が出てしまいそうなほどに叫んだ。

獣のように、鋭く、醜く。


あのときは出なかった涙が。

理解もできず、ただ天に昇っていく白い煙を眺めていただけのわたしは。

このときようやく、自分の感情を解放することができたんだ。