ブルー・ロマン・アイロニー



ひとりで戻ってきたノアはなにも言わなかった。

だからわたしから話すことにした。



「……さっき、先生が言ってたことだけど」


いや、これよりも先に言うことあるでしょ、と自分にツッコミながら。



「もしかしてずっと、学校にいたの?」

「ずっとじゃねえ。お前が学校にいるときだけいた」

「……そう」


会話が途切れて、静寂が訪れる。

わたしが寝返りを打つたびにシーツの擦れる音だけが響いた。


言わないといけない言葉がある。

それなのに、なかなか言い出せない。



「わたし、アンドロイドに感情があるとは思わない」

「知ってる」

「喜びも、心配も、怒りも。結局はそれに似た電気信号が送られているだけで、それは決して感情なんかじゃない、と思ってるんだよね」

「わかってるよ」


だからなにが言いたいんだと言わんばかりに言葉の続きを待たれる。



「だからこれは感情のことを言ってるんじゃなくて。その、あくまでも電気信号のことを言ってるんだけど」


長い前置きをおえて、わたしは白い天井を見つめながら訊いた。



「もしかして嫉妬、してる?」


嫉妬。形にするとなんだかひどくちゃちなものに聞こえてしまう。