ブルー・ロマン・アイロニー



ノアの言うとおり、部屋は今朝に見たときよりも整頓されていて。ホコリ一つ落ちていない。

そして豚の角煮はお箸で崩れるほどとろとろだった。

よほど時間を余してたんだなと思いながらお箸を口に運ぶ。


はちゃめちゃに美味しい。これが噂の悪魔の食べ物か。



「で、どうするんだよ」

「どうするって?」

「あいつと付き合うのか?」


嚥下しようとしていたご飯が、食道に流れる直前で変なところに入って、ごほっと咽せる。

涙目になりながら、わたしはいやいや、いやいやいやと首を横にふった。



「つ、付き合うとかそういうの……よくわかんないし」

「向こうは確実にあまりのことが好きだぜ。わからねえけどわかりやすい」

「でも、ありえないよ……」

「はあぁ?ありえないもクソもあるか。アンドロイドが人間に恋するよりもずっと現実的でありえる話だぜ」

「それはもちろんそうだけど……でも、」


わたしが言葉を繋ごうとした瞬間、ノアが我慢ならないといった様子で茶碗を机に叩きつけた。



「だああ、でもでもでもでもうるせえ!!なんでそんなに自己評価が低いんだよお前は!!マイナス思考しかできねえのか!?前にしか進めねえカンガルーと同じくらいかわいそうだぞ!?」


かわいそう。

そのひとことがわたしの着火剤となった。

カッとしたわたしも音を立ててコップを机に置く。

その勢いで中に入っていた麦茶が手にかかったけれど、かまわなかった。



「かわいそうって言わないで!わたしもカンガルーもかわいそうじゃない!」