アパートの2階からルーカスくんを見送って、その背中が見えなくなったところで玄関のドアをあけた。
するとドアにもたれかかっていたのか、ごろりんとノアが仰向けに転がり出てきた。
「なにしてるのノア。というかずっとそこにいたの」
「はァ~歯痒い。奥歯から親知らずまで全部痒い」
「親知らずなんてないでしょ」
「これだから人間ってやつぁ……あとパンツ見えてるぞ」
「見えてるんじゃなくて見てるんじゃん!」
スカートを太ももの内側に手で挟み込みながら、「早く入ってよ変態!」と悪態をつく。
「最初の頃は平気で俺の前で着替えてたくせに……」
「もーーうるさいうるさい!」
「うぉい!腹を踏んで乗り越えていくんじゃねえ!」
部屋の中に踏み入った瞬間、たしかに食欲をそそる匂いがわたしの鼻腔を刺激して。
さっきまでは感じなかった空腹が一気に押し寄せてきた。
今日は豚の角煮!



