「おかえり!遅かったな!学校はどうだった!いやーたまには留守番もいいもんだな。掃除もできたし、テレビを占領しても誰にも怒られねえ。それでも時間がたっぷり余ったもんだから豚の角煮を作ってたところだ。豚の角煮だぜ?美味さと手間を天秤にかけても若干手間が上回るあの豚の角煮を!この俺が!主人様のために作って!帰りを待ってんだ!健気だろ?優秀だろ?だからほら、早く入れよ。あ、つーかあまり、傘忘れてったろ。濡れてないか?メシ食う前に風呂入ってくるか?まあ、ともかく入れよ」


わたしはたったいま開けたばかりのドアを一旦閉じた。



「ごめんねルーカスくん。言い忘れてたけど、うるさいの大丈夫?」


いぬ大丈夫?みたいな言い方すんな!と中からうるさいのが聞こえてくる。

本当に今日は一段とテンションが高いな。

台風が来てるからかな?小学生か。


わたしが中々ただいましないのに痺れを切らしたのか、がちゃりと内側からドアが開いた。

顔を出したノアがねめつけるように見ているのはわたし、の後ろにいるルーカスくん。



「で、なんだおめーは」

「ルーカスくんだよ。傘がないわたしをここまで送ってくれたの」

「あまりお母さんは許しませんようちで逢引きなんて」

「話聞いてた?あと次その冗談言ったら怒るよ」


「そもそもお前、傘あんじゃねえか。それ、買ったのか?」

「それは、~~っ、も、いいから中入ってて!」


ノアを中に押しこんで無理やりドアを閉める。

背で押さえるようにもたれかかって、ルーカスくんに「ごめんね、いつもはもうちょっと大人しいんだけど。台風で興奮してるみたい」と言った。

またドアの内側からなにか言っている。


わたしはそれを無視して、あらためてルーカスくんに向き合った。